何もいらない

確実に気配が薄くなっている。

それはとても悲しいことのはずなのに、私はそのお陰で今日も、深く呼吸することが出来る。

なんて、皮肉なことだろう。

これは妄想か、それとも夢か。

夜が深くなって、落ちる直前の直前。
涙をTシャツの袖でおさえながら考えていたこと。


「私があげられるものはもう何もないよ。」
からっぽになってもなお、生まれてこようとする好きの気持ち。
だけど私にはもう、彼にそれを伝え続ける勇気すら残ってないみたい。

彼にはいつも笑っていてほしくて、幸せになってほしくて、ただそれだけで。
それが私にとっての幸せだった。
一生懸命頑張ったけど、私には無理だったみたい。

これ以上は正直、怖い。
「これ以上傷ついたら、今度こそ私死んじゃうよ?」

彼が何か言おうとしてるけど、その続きはわからない。きっともう、思い浮かべるには遠すぎる。

「何もいらないからそばにいて欲しい」って、本当はそう言って欲しかった。


2人とも幸せになるために生まれてきたんだから、別れるのもきっとそのためだね。
良く言われるような台詞をなぞって納得しようとして。

それでもね、不幸になったって、私はあなたがよかった。
そんなこと思うからダメだった?

別れ際に「私の方があなたを幸せにできるのに」なんて言ったけど、今の私には無理か。

たった数ヶ月なのに、あっち側とこっち側の世界は、なんて遠いんだろう。

何を読んでも、何をみても、何をきいても、彼のことばかり考えてる。
素晴らしい言葉、自然、音楽、小説、映像作品、そのどれもに感銘を受ける。
それすら、この抱えきれない感情すらも、彼が与えてくれたもの。

世界がこんなに悲しくて、だけどこんなにも優しいものだって知らなかった。


この傷だって、私の未来のため。

全部、私のものにする。
乗り越えて強くなってみせる。

私の人生は誰のものでもないんだから、私が変わっていかなくちゃ。

大丈夫、大丈夫。

モノレール

モノレールって乗り物が、本当に好きだなぁ。

なんて思いながら、窓の外を通り過ぎる街を見下ろしていた。
ネギの頭だけ見えているスーパーの袋を下げた人、自転車を両手放しで乗りこなしている人、たぶん誰かに見られているなんて思ってもいない人たちを眺める。
太陽は真っ直ぐこちらを向いて差していて、いつもなら日焼けを気にして窓際なんかに座らないけど、今日は太陽の光を浴びたい。


今年初の真夏日を記録した東京。
この場所に戻ってきた。

羽田空港から都心に向かう方法は京急東京モノレールとそれからリムジンバス。
選択肢はあるけれど、福岡から東京まで何度も通って、その度に使ったモノレールは何となく思い入れがある。
不安と期待とが入り混じったあの気持ちと、この風景は重なって、今でもどこかから東京に戻ってきたと実感したい時は必ずモノレールを選ぶ。そんな時が結構あるということ。感傷に浸るタイプなので。

何度か、泣きながらこの窓を眺めた覚えがある。ここの景色は本当に泣けてくるのだ。
何故だかは分からない。


戻ってきたくなかった。
彼に会えない東京になんの意味があるんだろう、と今回もボロボロ泣いた。

それがもう2日前のこと。

この部屋でも息は吸えているし、ちゃんと寝て起きて、ご飯も作って食べて、仕事もしている。
もちろん泣きもするけど、くだらないテレビをみて笑ったりもする。日常。

最近ずっと公園の近くに住みたいと考えすぎて、東京の公園にも少しだけ詳しくなった。
Googleマップで検索していたら、自宅近くに少し大きめの公園があることもわかって、夜はそこに散歩に出掛けてみた。
今まで何度も側を通ったことはあるし、確かに公園っぽい場所あったなぁ…という感じ。
病んで自然を求めることなんてなかったから、今まで気にしたこともなかった。

実家の近くの散歩コースには負けるけど、まぁなかなかいい感じで、犬の散歩中の人や、ベンチでいちゃつくカップルや、ランニングしている人たちに紛れて、ひたすらぐるぐる歩いた。真夏で耐えられなくなるまでは毎日歩こうかなぁと思っている。

近所はもうほとんど行き尽くしていて、全部思い出しかないと思っていた。
唯一思い出のない場所がちゃんとウォーキングコースまである公園だなんて、なんのアフターケアだよと思ってなんだか笑える。


でもそういうのも、意味なんてないただのこじつけ。

2年前と全く同じおみくじをひいても、藤井風が皇居外苑を走っても、帰りの飛行機で『花束みたいな恋をした』が観られるようになっていても。

それは私が感じる「運命」なだけ。
私にとっては運命の人だった。彼にとっては単なる偶然。ただ、それだけのこと。

はじまりは、終わりのはじまり。
出会った瞬間、別れに向かっているのだと、イヤホン越しにもう一度、有村架純が繰り返す。

だからその時が来るまで精一杯、愛さなければいけない。
だとしたら、私は私にできる精一杯で愛してきたと思う。彼と、彼との時間と、彼といた時の私自身。
後悔も反省もたくさんあるけれど、いつかそういう自分のことを許せるときがきたらなぁ。


とりあえず、目下の目標は健康。
今週、健康診断。

勝手でごめん。

優柔不断で、プライドが高くて、頑固で、自分で決めたことが1番正しいと思ってる。
それは彼のことを言っているようで、実は私自身の大きな欠点でもある。


本音を押し殺してしまう時も、こぼれてしまった時も、結局どっちも悲しい。

行ける場所はどこにもない。


聞きたくないことには、耳を塞いで。

勝手だよね。ごめんね。
本当にごめん。

1つ、思い始めたことがある。

彼はよりを戻した時に、
「お互いに無理はしないって約束しよう」
そう言ってた。

でも、私とちゃんと向き合うために変わろうとしてくれてたのは、きっと彼ばかりだった。

だって、私は私のままでよかった。
ただ素直に、まっすぐに、彼を想ってただけ。それはよりを戻す前も後も変わらずにそうだった。
何も変わらなくて、変わる努力もきっと足りなくて、それを受け止め続けてくれたのは彼の方だったんじゃないか。
そんな風に思う。

そりゃもちろん頑張ってたつもりで、でも、ただ気持ちを押し付けてただけなのかな。
好意だから許されるなんてことはなくて、そこには思いやりが必要で、素直も一途も結構なことだけど、配慮がなければ負担になってしまう。
そういうところが、私には欠けてたんじゃないかって。

そんなね、後悔ばかり。

まだ私が22歳の春のこと。

「ボロボロになるまで都合の良い女になればいい」という一見無責任な言葉に背中を押されて、最後に会いに行った人がいた。
本当にその人は、私を都合良く求めてきたけれど、私は結局そうはならなかった。
その時やっと、自分の気持ちに区切りがついたような気がする。

もし、今の私が22歳なら、迷わず動けただろうか。
ものすごく好きな気持ちを、この燃料を、燃やし尽くしてしまえただろうか。

燃え続けて。
どんなに傷ついても好きなまま。

忘れられないんじゃなくて、忘れたくないから、嫌いになれないんじゃなくて、好きでいたいから。

結局、どれも私が選んでいること。

なくしたくないんだ、全部。

自己責任。わかってる。
なのに弱音ばっかりで。
ほんとに、ごめん。


まだ好きで、ごめんね。

寝ても覚めても

「今、結構キスしたい…かも」
その顔を見た瞬間に心臓が跳ねて、身体中が熱くなった。いっきに血液が巡って痺れるような感覚。

「だめ」と手で押しのけた。この人には彼女がいる。間違いなく、私はそれを知っている。
押しのけた手が、iPhoneの冷たさに触れた。

ーーところで、目が覚めた。

左手の甲に触れたiPhoneの冷たさだけはどうやら本物。頭に感情が来る前に、目からは涙があふれていた。
夢か。
心臓はまだ激しく鼓動していて、なんて惨めなんだろうと笑えたりもしなくて、呆然とする。
 
まだ4時だ。
触れたついでに持ち上げたiPhoneの画面で時間を知る。
夢だ。ただの夢。
なのに、細胞の隅々まで反応するほどに、私は何も諦められていないことを思い知る。

女の「やめて」はそのまま「やめて」の意味だけど、「だめ」は「いいよ」ってことなんだってYouTubeだかTikTokだかで言ってたな。

彼は絶対にそんなことしないし言わないって、私が一番よくわかってる。
なのにこんな、最低な夢を見る。

キスしたいと言った彼の顔を、もう思い出せない。

このまま実家にいたっていいのだけど。

東京の家の宅配ボックスに、4月末から放置されているはずの私の荷物。
それだけは早く受け取らないと迷惑だよな。

1月に予約していた洋服たち。
オーバーオール、デニムスカート、ネイビーのジャケット。
30代は好きなものを着たい。
原点回帰とでもいうのか、モテも流行も、もちろん好きな人の好みも気にせずに自分らしいものが着たいな、とふと思い立ったのだった。

彼に見せたくて買ったものじゃなくても、それでもやっぱり見せたかったなとは思う。

そりゃ、そうか。
好きな人ってそういう存在だもんね。

「地元帰っちゃうの、嫌です」
と、同僚男性に言われた。

嘘みたいな話だけど、2年程度直接連絡も取ってなかったような人に、こんなタイミングで食事に誘われた。
それは東京に戻ったらということにして、そのままダラダラとLINEでやりとりをしている。
好意よりも遥かに薄い、ただ可能性あるならみたいな近づき方であることも、何となく感じている。

嫌ってほど話もしてないじゃん…なんて、性格の悪いことを思う。

なんでだろう。
このタイミングでこんなふうに近づいてくる人がいることに、なにか意味はあるんだろうか。

そのセリフを一番言われたい人がいて、その人には帰る帰らないの話すらできないのに。

こういうタイミングで流されて、良いことなんてないことは身に染みてわかっている。

こんなことがあって、さらに私に何を課そうというんだろう。
こんなに頑張って一途に思って、それでもダメで、もう何も残ってない。

お願いだから、これ以上私に何もしないで。

まだ、彼を求めている。
毎日、自分自身を損なってしまったような、何かがずっと欠けているような、そういう感覚のまま。

だからあんな夢を見る。
あり得ないのに鮮明で、甘すぎて悲しいだけの夢。

寝ても覚めても同じこと。
この世界線にいる限り、現実は変わらない。

よるのあと

あの曲、美味しかったもの、綺麗な景色。
すごく優しかった友達のこと。

いちばん伝えたい人には何ひとつ伝えられない。
でもSNSで無理やり見せるとかそういうのも違くて、そういうことじゃないんだと思いながら、とりあえずiPhoneのメモに羅列して。

でも、いつかそういう「言いたいこと」も、たぶんなくなる。
言っても伝わらないほどに遠くなって、それがわかって、虚しくなるときがきっとくる。

浮かぶ言葉、伝えたい気持ち、今あるものを必死にかき集める。

このまま、なにも、なくなってしまうの?

また、感染者が増えてきてる。
でも私にはもう心配する権利すらない。

ああ、そうか心配って権利なんだなと、夜道を歩きながら思った。
大丈夫?大丈夫だよって、そうやって言い合える関係。
家族とか友達とか恋人とか。
なら、私はそれ以下か。

なんてマイナス思考も、月が綺麗とか風が気持ちいいとかちょっとしたことで軽減はする。

夜の散歩は悪くない。

痛すぎて、もういろんな意味で痛すぎて。

全部忘れてしまえたらって思う以上に、やっぱり忘れたくないとは思ってるけど。

自分から消さなくたって、勝手に消えていく。

毎日、こぼれ落ちる。
大事だったものから順番に。
実感をもった温度や声やその雰囲気や、そういう"本物"から順番に。

宝物のような毎日。
ほかに何を差し出しても構わないから、返して。
だけど、
お願い返して。
なんて誰にも言えない。
お願いする先なんてない。
誰に?惨めすぎる。

神様にも言えない。
神社には行ったけど、戻りたいなんて言えなかった。
そんな馬鹿なこと、誰が聞いてくれるの?

"好きな人が好きでいてくれることは当たり前じゃない"とかなんとか。
言い尽くされた言葉なのに、そういうのっていつもいつも、終わった後に実感するのはどうしてなんだろう。

そんなことわかってたはずなのに、私はいつから安心してたんだろう?
油断してたんだろう?

この幸せがずっと続くんだって信じて疑わなかった私をぶん殴って、目覚ませって怒鳴り散らして、「絶対に私だけを見てくれるように努力し続けろ」って胸ぐら掴んで言いたい。
まだ間に合ううちに。 

でも全部、もう遅い。

ねえ、今日、adieuの「よるのあと」がTHE FIRST TAKEで公開されたね。

もう聴いた?

できるなら、私が感じるのと同じ意味を持って、あなたに届いていますように。

あなたが嘘をつかなくても
生きていけますようにと
何回も何千回も 願っている
さよなら

good loser

世界で1番大好きな人と結ばれる。
それが私の人生の目標だった。

それはもう、目の前に見えていた。
ような気がしていた。


ドラマのヒロインはどんな困難に見舞われても、最後には運命の人と結ばれる。
ハッピーエンドじゃないディズニー映画はない。

でも、ここはフィクションではなく現実世界で、用意された脚本もない。
殆どの人にはそんな運命的な出会いも、結末も、訪れない(のかもしれない)。

運命を信じたり、ハッピーエンドを信じたり?
そういう少女みたいな夢は捨てて、そろそろ現実的に女としての幸せ考えたら?
そんな風に、何かに嘲笑われているような気さえする。


ぜんぶ、ファンタジーだった。
そう思おうか。

こう思える瞬間もある。

たくさん幸せにしてくれてありがとう。
あなたの長い人生からしたら切れ端のような時間だったかもしれないけど、誰よりも大好きな人の側にいられて本当に嬉しかったよ。

私たちの過ごした時間は、未知のウイルスが蔓延して、先の見えない時期と重なってしまったから、不謹慎だけど一生忘れることはないよね。
それだけは、ざまあみろと思ってる。


もし、いつかあなたが後悔してくれたとして、私を思い出すことがあったとして、それは「こんなに俺のことを大事に思ってくれる人は、他にいなかったのに」
そういう思いだよね。きっと。
そうだね、私ももうこんな風には誰のことも愛せないかもしれない。
でもね、"想われてるから大事にしたい"じゃなくて、"好きだから大事にしたい"って思って欲しかった。
もちろん、まったくそうじゃなかったなんて思いたくないし、思ってないけど、私はあなたの2番目や3番目にはなりたくない。
1番目の人がダメだったからって、妥協で選ばれるのって、たぶん相当惨めでしょう?

だから、もう先に行くね。
この先で、私のことを1番に想ってくれる人と出会うことができたなら。その人の手をとることができたなら、素敵だなと思ってる。

いつか、あなたの手を離してよかったって、思わせてね。


そんな感じにね、思える時もある。
そうじゃない時の方が圧倒的に多くて、毎日まだ苦しい。
でも、ちょっとでも前には進めてるよね?

別れたけど、今でも一緒に生きてると思ってるよ。

これは『大豆田とわ子と三人の元夫』第2話のとわ子の台詞。自然と涙が出た。

今生きているのは、一瞬でも交わった私たちの人生の続きなんだって、そう思えた。

あなたのことを、あなたとの未来を、すべて失った、奪われたと思ってた。

でもそうじゃない。
あなたと出会って過ごした時間がなければ、なりえなかった私がここにいる。

それだけは誰にも奪えやしないでしょう?

だったらもっと大切に、生きていかなきゃね。

おいてきぼり

何でそんなこと言うんや…とか思わず言いたくなる、余計なこと言うようなところも好きだった。
彼の「彼らしさ」が、大好きだった。
もちろん今も。

謝り方も好きだった。
喧嘩らしい喧嘩をしたことはなくて、モヤっとしたら話し合い。
自分が間違ってると思ったら、言葉を尽くして謝ってくれる。それだけじゃなくて、愛のある言葉と行動をくれる。
いつも、もっと好きになってた。
私の機嫌をとる天才だったね。


「傷つけて、ごめんね」

反射的に首を振った。
ずっと耳に残っていて、再生されるたび、私は自分が深く、深く、傷ついていることを理解する。なのに、あなたがそんなに辛そうな声なのはずるい。

お願いだから、ごめんだけで終わらせないで。何度も思う。

そこに感じる罪悪感と、それをなくしたいがための卑怯さと、でもやっぱりほんの少しある誠意と、そういう要らない諸々を思う。

それで、あなたは平気なの?
もう二度と会えなくなっても?
聞いたらきっと、もっと傷つくんだろう。
そうだから、別れ話、したんだもんね。

素直に「もう会えないの?」とか聞いてしまった私。もう、考えて喋る余裕なんてなかった。
あなたはなんて答えたんだっけ?
「そうだね、しばらくは…」とかだったかな。

この1ヶ月間、何度も何度も、会いたいと思ってしまう私は馬鹿みたいだね。

「もう4月も後半かぁ、早いね」と言われて、「早いのか…」と思った。
確かに、もう1ヶ月も経った、とも言えるのかもしれない。
時間が解決してくれる。本当にそうなのであればもう、来年くらいまで時間を飛ばして欲しい。

私はずっと、3月31日のあの夜、立ち止まって手を振りつづけたあの時のまま、動けずにいる。

馬鹿げたことだけどもし、別れ話をされた3月26日から、「フラれた私の場合…」的なパラレルワールドを生きているのなら、そうじゃない方の私はまだ幸せなのだろうか。
「こんなことがなければ、まだ一緒にいられたのかもしれない」と確かに彼は言ったのだから。

そんなものがもしあるのなら、もう1つの人生を生きていたかったな。


毎日散歩をしていると、少しずつ季節が夏に向かっていってるのがわかる。
彼のいない未来なんて、知りたくなかった。
こんな苦しい気持ちをいつまで抱え続けなくちゃいけないんだろう。

声も、表情も、匂いも、温度も、だんだん鮮明じゃなくなってく。
だけど、言葉だけは残しておけば消えないんだと信じて、縋るような気持ちで残している。
もらった言葉も、伝えた言葉も、そして言えずにのみこんだ言葉も、どうか消えないで。